にわか雑記帳

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遠野物語とマヨヒガの不思議

 遠野物語

 日本民俗学の先達・柳田國男が、民話・妖怪譚の収集家である佐々木喜善から聞いた岩手県遠野地方の民間伝承を纏め記した本です。

 最近は創作界隈で「遠野」というワードが使われる機会が増えたため、それを通じてご存知の方も多いと思います(「うしおととら」「東方」「ぬらりひょんの孫」あたりが幅広い年代・クラスタに広めたのだと勝手に考えていますが実際はどうなのでしょう?)。

 僕自身、東方やうしとらで遠野という言葉は知っていましたが、遠野物語を読んでみようと思い立ったのは本格美少女麻雀漫画こと咲-Saki-の影響でした。

 

 咲の作者である小林立先生は全国各地の神話・民俗学・妖怪譚に造詣があり、それを麻雀用語の「山」などと絡めて登場人物のプロフィールを設定しています(先生からすれば「設定した」のではないと思いますが)。

 熱心なファンの方々はその設定を受けて考察を行っているのですが、その内容の緻密さと、それらを設定に盛り込んでしまう立先生の手腕に驚かされます。

 そんな咲の登場人物の中で、岩手県出身のキャラクターたちは遠野物語に関係した設定を持っており、それで興味を抱いた僕も遠野物語を読んでみたいと思ったわけです。余談ですが姉帯豊音ちゃんはちょーかわいいです。

 

 話を戻します。遠野物語は、今では多くの人が知る存在となった「座敷童子」「マヨヒガ」を世に知らしめた作品です。

 座敷童子。最も有名な超自然的存在の一つですね。どことなく素朴でかわいらしい印象。ご利益も抜群で現金な方にも嬉しいです。

 座敷童子に出会えると有名なスポットは岩手県に二つあるそう。二戸市金田一温泉郷の「緑風荘」と、盛岡市神町「菅原別館」です。緑風荘は2009年に火事で全焼してしまいましたが、今年の5月に営業を再開したみたいですね。

 

 そしてマヨヒガ。ここからがようやく本題です。

 岩手県遠野郷にある白望山の伝承で、山中を歩いているといつの間にかマヨヒガという無人のお屋敷に辿り着くことがあり、そこから食器でも何でも持って帰ると幸福になるという話です。ただし欲のある人間には決して見つけられないと言われています。

 欲ばかり追い求めず質素に日々を過ごしていれば、いつかふと幸運に巡り合えるかもしれないよという夢のあるお話ですね。

 

 無欲な人にこそ幸運は降りかかるという話は数ありますが、その中でもマヨヒガの変わっているところは形はどうあれ物を盗んでいくことでしょう。

 それも相手方から被害を被ったからその慰謝料代わりとしてお宝を頂いていくぜというパターンではなく、とりあえず貰っとけというストロングスタイルです。

 この手の話は大抵、物を盗る前にまず罪悪感を薄れさせるプロセスが挟まれるのが普通だと思っていたのでこれには驚きました。

 実際には山の神様からの贈り物なので盗みではないのですが、お屋敷から勝手に物を頂いていくというのは常識ある人間には厳しいものがありますね。

 しかしそこは御安心。何も取らずに帰ったらお椀が俺を使えと言わんばかりに川から流れて来たという例があります。まさかの押しかけです。この親切さは流石神様と言ったところですね。

 ただし何も取らずに帰っても、後でマヨヒガだったと知って引き返した場合、お屋敷は跡形も無く消え失せており、また向こうから贈り物がやってくることもないそうです。事実を知って欲を抱いてしまうと恩寵は授かれないということでしょうか。何とも神様らしい。

 

 遠野物語は日本民俗学の走りとも呼ばれる偉大な作品です。山間に伝わる妖怪や伝承・・・河童、天狗、山男、神隠し、オシラサマなどが、実際にあった体験談として語られています。中には執筆当時まだ御存命だった方が体験したという話もあります。

 興味の湧いた方は是非読んでみてください。ただの昔話にはない奇妙なリアリティが、この世界に神様や妖怪がいるのではないかと思わせます。きっとあなたも遠野郷の虜になることでしょう。